当院の発熱外来におけるオミクロン株の臨床的特徴

はじめに

オミクロン株による第6波が日本を席巻しており、連日1日あたりの国内感染者数が更新されている状況が続いています。当院でも、第6波に入りオミクロン株によると思われる陽性者を200例近く診断してきましたが、昨夏のデルタ株による第5波のときと比べて、臨床的所見がそれなりに違いますので、簡単に整理しておきたいと思います。自験例ですし、小生個人のインプレッションですが、参考になればと思います。

咽頭所見について~デルタ株との比較

診察の際には必ず口腔内を観察します。対面してマスクを外していただくことになるので、それなりの感染リスクを伴いますが、適切な感染防御の上で実施します。お口を開けていただいて数秒もかかりませんが、咽頭後壁を中心に観察します。

デルタ株での特徴的所見

デルタ株の際は、咽頭後壁を観察するだけで、PCR検査をする前にほぼ診断がついていました。というのも、デルタ株では、全体的に鮮やかな発赤調の咽頭後壁(縦走襞を伴うことも)が特徴的だったからです。扁桃腺の腫大はほぼないですし、逆に、咽頭扁桃の腫大を伴う急性扁桃炎の所見がある場合は、99%以上PCR陰性で、新型コロナウイルスではない、別の感染症(溶連菌やアデノウイルス、ヘルペスウイルス等々)によるものだろうと推察できます。

オミクロン株での特徴的所見

オミクロン株については、流行りだした当初は、咽頭所見だけでは判別が難しいなと感じていましたが、例数を重ねるうちに、何となく特徴がつかめるようになってきました。オミクロン株では、咽頭後壁は、色調的には、退色調のピンク系粘膜にモザイク様~島状に集簇傾向のあるやや赤みの強いリンパ濾胞をよく観察するようで、ある意味、インフルエンザの際のいわゆる「インフルエンザ濾胞」と似通っているかなと思います。咽頭後壁と咽頭側索との赤色系コントラストも目立つように思います。咽頭痛の自覚がない方でも、インフルエンザ濾胞パターンを呈しているとPCR陽性になるケースは普通にあります。

扁桃の腫大を伴う急性扁桃炎であれば、コロナに対するPCRはまず陰性であろうというのは、デルタ株と共通ですね。

上咽頭炎もある?

中には、ほぼ正常な咽頭後壁所見でも咽頭痛を訴えて「PCR陽性」となる方々が一定数いらっしゃいます。この場合は、上咽頭炎なのかなぁとも思いますが、上咽頭はファイバースコープでないと確認できないので実際のところは分かりません。後鼻漏の存在などもヒントになるかもしれず、今後も検討していこうと思います。

初発症状は?

頻度の多い症状

どういう症状で発症するのかですが、38~39℃前後の急な発熱(熱発)や咽頭痛・頭痛が目立ちます。咳嗽(がいそう;せき)もそれなりに訴えとしてありますが、咳が気になって…という方は少数です。熱発は、デルタ株でも見られましたが、咽頭痛はそこまでデルタ株では頻度は高くなかったですね。逆に、デルタ株で特徴的であった味覚・嗅覚異常はほぼ見かけませんし、下痢もほぼないです。なので、家族で発熱を伴う下痢や悪心・嘔吐を呈しているような場合は、オミクロン株である可能性は低く、他のウイルス感染による急性胃腸炎だろうと推察できます。

診察時に、痰絡みの咳を呈する方々も一定数いらっしゃいますが、話を聞くと、数日前に咽頭痛や頭痛・だるさなどが先行していることが多いです。

発熱について

発熱に関してですが、急に38℃前後の発熱があったけれども、その後は(解熱剤なしで)平熱に戻り、咽頭痛や中等度の倦怠感だけが残っている~PCR検査をするとコロナ陽性というパターンを複数例経験しています。これはデルタ株ではなかったパターンかなと思います。デルタ株の時は、カロナール(アセトアミノフェン)やロキソニンのようなNSAIDsでもなかなか38℃以下に解熱してくれず発熱が遷延するパターンがそれなりにありました。一方、オミクロン株でも37℃前後の発熱が数日続くことがありますが、なかなか38℃以下に解熱してくれないというケースはまれに思います。

お子さんでは、急な39℃前後の発熱だと、悪心・嘔吐のエピソードも伴うことがありますが、下痢は認めないというのが、他のウイルス性胃腸炎との違いかなと思います。また、咽頭痛に関しては、成人ほどは痛みの自覚がないケースもそれなりに認めますので、咽頭痛がないからオミクロンではなさそうだとはならない点は留意しても良いでしょう。

処方内容は?

デルタ株のときと症状が違うので、処方内容も大きく変わりました。咽頭痛に対する処方が中心ですので、トラネキサム酸や桔梗湯などの漢方、あるいはトローチといった喉のための処方がものすごく増えました。

解熱・鎮痛剤に関しては、デルタ株の際は、カロナール500mgを毎食後(1500mg/日)で出したくなる症例が実に多かったのですが、今回のオミクロンに関しては、カロナール500mgは屯服でいいかなぁ、というケースがほとんどです。

関節痛や頭痛の訴えがあり、発汗する前なら麻黄湯や葛根湯を2~3日分出すこともあります。

ワクチン接種歴は?

多くの方々がワクチン2回接種を済ませている状況ですので、当然ながら陽性者の多くはワクチン2回済ですし、中には、3回目の接種を済ませて日が浅い方も感染していますね。いわゆるブレークスルー感染はオミクロン株では当たり前といった感じですので、感染予防効果はあまり期待できないのかもしれません。が、軽症で済むということに寄与している可能性は十分にあるだろうと思います。

未接種の方もそれなりにいらっしゃいます。が、未接種だから強い臨床症状を呈するかというとあまりそんな印象はありません。もしかしたら、重症化する割合が高いのかもしれませんが、少ない自験例ではそこまでは評価できないですね。

臨床経過は?

軽症例が多いと言われるオミクロンですが、確かにデルタ株と比べると、明らかに感冒の急性期症状を呈する期間が短いように思います。コロナ陽性と診断されると、基本的には自宅療養になりますが、電話等で症状をフォローすると、特に息苦しさの訴えもなく、いわゆる普通のかぜの経過と同様なケースが目立ちますし、電話口での声のトーンも普通な印象です。この点は、昨夏のデルタ株のときと大違いです。あの時は、在宅で酸素ボンベを使いたくても、全部出払っていて使えないという状況でしたし、電話口からの声のトーンも、いかにもつらいです、という絞り出すような感じでした。

軽症例が多いとは言え、感染力は高いとされ、実際に感染者数は増え続けています。そして、その内の一定数は重症化するでしょうから、医療逼迫に繋がるのは時間の問題です。また、PCR検査の試薬や抗原検査のキットも入手しづらい状況が続いてますので、速やかな供給の安定化と第6波の早い収束が望まれます。

文献的には?

いくつか報告がありますが、オミクロン株は肺の上皮細胞ではそこまでの増殖能はなく、もっぱら上気道や鼻腔で増えるようです[NIIDnature]。なので、肺炎を来すことは少なく重症例が少ない、つまり普通の上気道感染のような症状を呈し、入院に至るケースも相対的に少ないということで[nature]、これは自験例で得られた臨床像とよく合致しますね。

感染力の高さについては、十分には解明されていません。個人的には、単純に上気道がウイルス増殖の主座ということで、デルタ型に比べて飛沫感染や接触感染が起きやすいことに加え、1~2回のワクチン接種では、オミクロン株に対する発症予防効果がそれほどでもないからだろうと考えます。

3回目のワクチン接種(ブースター接種)をすれば、オミクロン株に対する発症予防効果は相対的には上がるでしょうが、経時的に抗体は減少していくでしょうし[UKHSA]、発症予防効果の上昇だけを主眼としたワクチンの繰り返し接種は、個人的にはそろそろなしで良いのかなとも思います。

まとめ

インフルエンザが全く流行っていない状況で、39℃前後の熱発・頭痛・咽頭痛は、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症を強く疑わせますし、咽頭後壁の、インフルエンザ濾胞のような、発赤した複数のリンパ濾胞が観察できれば、更にオミクロン株の感染を疑います。なので、このような症例に絞ってPCR検査を実施すると、かなりの確率(9割以上)で陽性の確定診断を下すことが可能です。

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『当院の発熱外来におけるオミクロン株の臨床的特徴』へのコメント

  1. Suzuki : 投稿日:2022/01/30 16:51

    いつもお世話になっております。いつもお忙しい中、オミクロン株についての有益な情報記載、有難うございます。
    ブースター接種について:竹下内科ではブースター接種を実施しているかと思います。記事の最後の方にあります「発症予防効果を主眼とした繰り返し接種はそろそろなしで良い」とすると、これからブースター接種をする場合の目的としては、青木先生としては主に重症化を抑止する為というご見解でよろしいでしょうか。
     もしそれで合っている場合、オミクロン株は旧来の変異株に対して重症化リスクは低いとされており、個人的には例えば非高齢者で基礎疾患なし等であれば、仮に市から接種券が届いてもそれほど急いでブーストする必要はないのかなと思いますが、これについてはいかがでしょうか。
     また以前心筋炎についての記事のコメントの中で、小児(5〜11歳)のコロナワクチン接種については、可能となった場合でも竹下内科で実施する考えはないとありました。これについても現在方針として変わりないでしょうか。

    • Dr. Martin : 投稿日:2022/02/03 07:15

      コメントありがとうございます。ブースター接種は、基本的なスタンスは「受けることができるタイミングで受けることで良い」ですね。ブースター接種の目的は、短期的には、主に液性免疫が関与する発症予防効果の回復と、中長期的には、細胞性免疫が関与する重症化予防効果を増強させる(←期待値も込めて)という2つの側面があると思います。今、オミクロン株が席巻していますが、収束するのは時間の問題ですし、立ち上がりが早かった分、個人的には収束スピードも早いと期待しています。そういう意味では、接種券が届いたタイミングが、オミクロン株がピークアウトした後であれば、そんなに急がなくても良いのかなとは思います。むしろ、オミクロン株の次の変異株を見据えて、第7波に入るタイミングで接種するという戦略もありでしょう(第7波は到来せずに、新型コロナ感染症自体が収束するというのが最も期待することですが)。私個人は、発熱外来でオミクロンに曝露されるであろう機会が多い分、第6波に突入して、打てるタイミングで3回目を接種しましたが。

      5~11歳に対するワクチン接種ですが、ふじみ野市では、小児科医が接種するということになると理解していますので、そういう意味では当院ではそもそも5~11歳は対象外になるかと思います。また、個人的には、現時点でも、すべての5~11歳に「今の」コロナワクチン接種がぜひとも必要とはさほど思いません。中長期的な重症化予防効果が期待できるのであれば、接種も考慮しますが、短期的な発症予防効果のためには…と思います。この辺りは、新型コロナの毒性との兼ね合いですね。私自身、8歳と10歳の息子がいますが、現時点で特に接種の必要性は感じていません。まぁ繰り返しになりますが、コロナ株の毒性次第です(ベネフィットとリスクのバランス)。

  2. Suzuki : 投稿日:2022/02/03 19:09

     大変お忙しい中ご見解をいただき有難うございました。
    予防効果が短期的にしか期待できないのであれば、タイミングを見計らって接種するという戦略は確かに合理的かなと思います。
     最後のベネフィットとリスクのバランスという観点ですが、今日政府やメディアによってしきりにメリット面が強調されて追加接種の推奨がなされているものの、リスク面にほとんど言及していないように思われ、是非ともリスクについてのお考えも伺うことができれば幸いです。
     例えば私は30代ですが、接種後の短期的には
    ファーザー、モデルナで30代のワクチン接種後の死者:31人(因果関係が関連ありまたは評価不能に限定)https://covid-vaccine.jp/pfizer-medi?page=153&limit=50&sort1=age&sort2=severity&o2=1
    30代人口約1700万、接種率80% → 死亡率2.3ppm
    コロナ死者85人→死亡率5ppm (オミクロン株で死亡リスクがさらに下がっているとすると、死亡リスクにおいては同等かワクチンの方が高くなる?)いずれも極めて低い確率であり、車を運転する方がはるかに高リスクだと言われればその通りなのですが、インフルエンザワクチンの接種後死亡率は全年齢でも0.1ppm以下であり(平成30年)、30代はゼロです。今回のワクチンの副反応リスクはかなり高いと言えるのではないでしょうか。
     個人的にも、2回接種後の副反応はインフルエンザ罹患並みの高熱と頭痛で大変しんどく、本調子に戻るまで1週間はかかりましたので、少なくともオミクロン株並みの毒性であれば、追加接種することのメリットがデメリットを上回るとはなかなか考え難いです。
     また、中長期的には、感染予防効果は一時的で(最大瞬間風速的な数字が常に強調されているように思えます)、記事にリンクのあるUKHSAの報告の通り液性免疫の効果が「wanes rapidly」となると、以下の動画解説にもありますが(オミクロン株とADE)
    https://www.youtube.com/watch?v=9wS-jbX_6vI
    NTDの感染増強抗体がやがて優位となってしまい、繰り返し接種することによって逆に感染しやすくなってしまうこともあり得るのではないかと考えてしまいます。イスラエルの4回目摂取後の状況がまさにこれに当てはまっているのではないかと。このADEとも考えられるデメリット(リスク)についてはいかがでしょうか。

    ・5〜11歳のコロナワクチン接種についてご見解いただき有難うございました。コメントで「今の」というのは、今のワクチンが初代武漢株に対応したものであって、流行している変異株に必ずしもマッチしていないという意味でよろしいでしょうか。
    ・竹下医院は内科と小児科を診療科目とされていると思いますが、小児科の専門医が接種を請け負うだろうということでしょうか。
     長々と大変申し訳ございません。