Precordial Catch Syndrome(前胸部キャッチ症候群)について

Precordial Catch Syndrome

はじめに

時々、10代から20代前半の若い方(個人的な印象では女性が多いか?)で前胸部の痛みを訴える方に遭遇します。前胸部の痛みということで、狭心症や帯状疱疹、また胃や十二指腸由来かもしれないので、腹部も触診等しますが、特にこれといった所見はなく、かといって胸部レントゲンや心電図でも異常は見当たらず。以前、こういう患者さんを診たときは、(命にかかわるかもしれない)胸部症状の訴えなのに「何も他覚的な所見がない」という状況に困惑したものですが、「Precordial Catch Syndrome」という病態があることを知ってからは、その可能性もあるね、いや、むしろそれじゃない?と思えるようになりました。

特 徴

以下のような特徴があるので、ピッタリはまれば診断は容易いかもしれません。

  • 前胸部の鋭い刺すような痛み(チクチク、ピリピリ)で、急に起こる(運動時よりは安静時)。
  • 痛みの範囲は限局的で(第4肋間付近~左乳頭付近)、特に圧痛点は認めない。
  • 痛み自体は、数十秒から数分で消失することが多く、ほかの随伴症状はない(左肩への放散痛など)。
  • 典型例では、吸気時に痛みが増強される。
  • 年齢的には6~12歳が多く、特に性差はないようだ(女性に多い印象があるが年齢が上がるとそうなのかも)。
  • 原因はよく分かっていないが、肋間筋や肋間神経が絡んでいるようで、いずれにせよ、心臓ではなく、胸壁がフォーカスのよう。
  • 治療は不要で、そのうち(年齢とともに)治る。いわゆる「経過観察」で良い。

名前の由来は?

歴史的には、フランスの心臓専門医 Henri Huchard(アンリ・ウシャール)が1893年に「précordialgie(前胸部痛)」として報告したのが最初のようです。その後、1955年に、アメリカのMillerとTexidorによって、当該症状を呈した10例をまとめて、Precordial catch syndromeとして報告したことで広く知られるようになったようです(Miller自身もその1症例とのこと)。

「Precordial」は前胸部で良いとして、「catch」とは何でしょうか?Webで調べると、

痛む左前胸部を掴み取る格好をすることから「前胸部キャッチ症候群」Precordial catch syndromeと呼ばれています。

https://www.jhf.or.jp/publish/bunko/56.html

という記載を見つけ「なるほど!」と思ったのですが、もっと調べてみると、上記 Millerらの1955年での報告で、

…afraid to breathe ‘as if something were catching’ (訳出:まるで何かが掴んでいるようで息をするのも怖いわ)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1627421/pdf/archdisch00769-0087.pdf

という記載があるようですね。それで Precordial ‘catch’ syndrome と。

参考リンク

■ 了

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