ワクチン接種後には揉まなくてよいのか?

10月1日からインフルエンザワクチンの予防接種がはじまりました。今年は、新型コロナウイルスに対する懸念もあり、高齢者を中心に接種希望者が多いように思います。で、最も多く訊かれる質問は、

「打った後は、もまなくても良いですか?」

というものです。これに対する回答は、

「揉む必要はありませんし、むしろ揉まない方が良いですよ。」

となります。確かに、かつては皮下注射や筋肉注射後に注射部位を揉んでいました。それも、打った先生や看護師さんが揉んでいたと思います。この背景としては、揉んだ方がワクチンの吸収が早くなって免疫も付きやすくなるだろうし、注射部位の硬結(しこり)の予防になるだろうというものです。一見、ごもっともな意見に思えますが、実はこれを支持する根拠は得られていないばかりか、むしろ皮下出血など、注射部位の副作用の原因になりえます。手元にある「予防接種に関するQ&A集」には、そのものずばりの項目があります。

Q17. ワクチン接種後は良く揉んだ方がよいのでしょうか。

A. 以前は接種後に接種部位を揉んでいましたが、免疫獲得への影響に差がないこと、強く揉むと皮下出血をきたすことがあることから、近年はあまり推奨されていません。軽く圧迫する程度にとどめておけばよいとされています。

岡部信彦ら「予防接種に関するQ&A集」19版. 日本ワクチン産業学会, 2019, p68.

また、同じく手元にある「インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン 2020年度版」には、以下の記載もあります。

接種後は接種部位を清潔なアルコール綿で押さえる。同部位を液が漏れ出ないように注意しながら揉まずに血が止まる程度に押さえるだけで良い。この時点であまり強く揉むと皮下出血を来すこともあるので、特に血管の脆弱な高齢者や出血傾向のある被接種者ではこの点注意を要する。

「インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン」. 2020年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター, p12.

こういう訳ですので、「ワクチン接種後は、揉む必要はないし、そのままで」ですね。

文献的な考察

文献を調べてみると、ワクチン接種部位を揉むこと(マッサージ)についての報告はほとんどなく、3種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風)のDPTワクチンに関するHsuらの報告が1995年にあります1)

彼らは、327人の乳幼児を1分間のマッサージ群と非マッサージ群に分けて、DPTワクチン接種後の有害事象を評価しました。結果、局所の疼痛や38~39℃台の発熱は、マッサージ群に多かったのです。一方で、124人の乳幼児に対しては、免疫原性も評価した結果、百日咳に対する抗FHA抗体価は、マッサージ群において有意に高かったことを報告しました。

つまり、揉んだ方がワクチンの効果は高いようだ、ただし、発熱や接種部位が痛む傾向があるけどね、と(著者らは、これらの有害事象に関しては、忍容可能であったというニュアンスの表現をしていますが…[not particularly disturbing])。これだけなら、揉むのは悪くないように思いますが、この報告には続きがあります。

1999年に同じ研究グループのHuangらは、DPTワクチン接種後のマッサージに関して、808人の乳幼児に参加してもらい、さらに検証しました2)。結果、免疫原性等についてはマッサージの有無での有意差は見られなかったが、局所の疼痛や腫脹については、マッサージ群に有意に多かったと報告してます(この報告では、2分間のマッサージに加え、ホットパック~温熱療法も併用している…)。

文献的には、彼らの報告ぐらいですかね。現時点では、接種部位を揉むことに対する有用性はなさそうで、むしろ発熱や局所の副作用が懸念される、ということになります。

文献ではありませんが、米国CDC(疾病予防管理センター)発行の予防接種のバイブルともいえる「Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases」(通称 Pinkbook)には、出血傾向を有する方に対するワクチン接種の項に

Do NOT rub or massage injection site

接種部位をこすったり揉んではならない

https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/vac-admin.html

との記載があります。出血傾向を有する方としては、ワーファリンやバイアスピリンなどのいわゆる「血液をさらさらにするお薬」を服用している方が該当しますので、特に高齢者を中心として一定数いらっしゃいますね。

もっとも、インフルエンザワクチンに関して言えば、日本の添付文書上は皮下注になってますが、これは歴史的な経緯もあるせいでして、海外では筋肉注射が普通です。その意味合いでは、皮下注は筋注よりも、(揉むことによる)局所的な出血リスクは低いとは思いますが。

文献

  1. C Y Hsu. et al. Local massage after vaccination enhances the immunogenicity of diphtheria-tetanus-pertussis vaccine. Pediatr Infect Dis J. 1995;14:567-72.
  2. F Y Huang. et al. Effect of local massage on vaccination: DTP and DTPa. Acta Paediatr Taiwan. 1999;40:166-70.

■ 了

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