小児のインフルエンザ2回接種について

Flu vaccination

今年は、新型コロナウイルス感染症の流行もあり、インフルエンザのワクチン(発症予防ではなく、重症化を防ぐことが第一の目的)が不足気味です。当院では、11月上旬の時点で、すでに昨年度の接種回数を大きく上回っており、また、ワクチンの入荷に関していえば、基本的には前年度の(卸さんからの)納入実績によるため、次の入荷があるのかどうかも定かでない状況です。おそらくどこの医療機関も似た状況かと思います。

1回接種じゃダメなの?

インフルエンザワクチンが不足しているこの状況ですが、日本においては、13歳未満の方は 2回接種が基本となっているために[リンク1]、2回目のワクチン接種をしたいのにワクチンの在庫がないという理由で医療機関から断られるケースもあるかと思います。また、このワクチン不足傾向については、少なくとも当院のある埼玉県ふじみ野市においては、令和2年度に限り、生後6カ月から中学3年までのお子さんのインフルエンザ予防接種費用が無料という背景もあり(通常は任意接種なので自己負担)、例年よりも接種されるお子さんが多いという事情もあるでしょう。

1回目は打てたんだけれど…という場合、お子さんの年齢によっては1回で良いかもしれません。この理由をもう少し掘り下げていきます。

上記のリンク1は厚労省の「令和2年度インフルエンザQ&A」ですが、「13歳未満の方は 2回接種」の根拠として「1回接種後よりも2回接種後の方がより高い抗体価の上昇が得られることから…」とサラッと記載があります。1回目と2回目どれくらい違うのか気になりますね。なので、インフルエンザワクチンの添付文書をみてみます。

日本におけるワクチンの臨床試験成績

例えば、KMバイオロジクス/Meiji SeikaファルマのインフルエンザHAワクチンの添付文書には、以下のような臨床試験の結果が掲載されています。

6カ月以上3歳未満の健康小児に、21日(±7日)間隔で2回皮下接種した結果

上図のように、日本では6カ月以上3歳未満には、0.25mLの皮下注射となっていますが、1回目と2回目では、抗体価が概ね2倍以上に上昇しており、2回接種の効果は高く、2回打つ意義は確かにありそうです

一方で、3歳以上13歳未満での同様のデータもあります。日本では、3歳以上は0.5mLの皮下注射ですが、下図の通りです。

3歳以上13歳未満の健康小児に、21日(±7日)間隔で2回皮下接種した結果

結果は、1回目よりは2回目の方が抗体価の上昇は見られますが、3歳未満で見られたような2倍以上の上昇ということはないです。この差がどれくらいワクチンの有効性に影響するのか判断は難しいところですが、表右端の中和抗体陽転率(各ワクチン株に対する抗体価が40倍以上かつ接種前の抗体価からの4倍以上の上昇を示した被験者割合~簡単にいえば、より体内で効果的に働くであろう抗体のこと)の数字もみると(及び限られたサンプルサイズ)、1回でも良いのかもと思わせるデータにはなっています。

海外でのワクチン接種回数は?

実は、既出の厚労省の参照リンク1には、諸外国の状況についての情報も(わざわざ丁寧に?)載せてあり、以下の記載があります。

諸外国の状況について、世界保健機関(WHO)においては、ワクチン(不活化ワクチンに限る。)の用法において、9歳以上の小児及び健康成人に対しては「1回注射」が適切である旨、見解を示しています。また、米国予防接種諮問委員会(US-ACIP)も、9歳以上(「月齢6ヶ月から8歳の小児」以外)の者は「1回注射」とする旨を示しています。

厚労省 「令和2年度インフルエンザQ&A」2020年11月29日アクセス.

日本と違って、13歳以上ではなく9歳以上であれば1回で良いよ、ということです。WHOのサイトでは、探した限り以下の記載が簡潔に載っています。

[…] These vaccines should not be given to children under the age of 6 months; those aged 6–36 months should receive half the adult dose. Previously unvaccinated children aged less than 9 years should receive two injections, administered at least 1 month apart. A single dose of the vaccine is appropriate for schoolchildren aged 9 years and over and for healthy adults. […]

https://www.who.int/ith/vaccines/seasonal_influenza/en/
  • インフルエンザの不活化ワクチンは、6カ月未満の小児には接種しない。
  • 6カ月から36カ月の小児には、成人の半分量を接種する。
  • これまでインフルエンザのワクチン接種を受けたことがない9歳未満の小児には、少なくとも1カ月の間隔をあけて2回接種するのが良い(筆者注:解釈によっては、じゃこれまでに接種歴があれば1回でも良い?となりますが、こちらは後述)。
  • 9歳以上は1回の接種で良い。

ということで、厚労省の記載通りですね。米国ではどうでしょうか。米国では、毎年そのシーズンのインフルエンザワクチンに関する提言を、米国予防接種諮問委員会(US-ACIP)を通して発表してます。それによると、

Children aged 6 months through 8 years who require 2 doses (see Children Aged 6 Months Through 8 Years) should receive their first dose as soon as possible after the vaccine becomes available to allow the second dose (which must be administered ≥4 weeks later) to be received by the end of October. 

6カ月から8歳までの小児は、4週間以上の間隔をあけて、2回接種するのが良い(筆者注:日本と米国での気候やインフルエンザワクチンの供給タイミングは違いますので、2回目を10月末までにという上記記載をそのまま日本に当てはめる必要はありません)

https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/rr/rr6908a1.htm?s_cid=rr6908a1_w#recommendationsfortheuseofinfluenzavaccines,2020%E2%80%9321

ということで、こちらも厚労省の記載通りでして、WHOにせよ米国にせよ、

9歳以上の小児は、インフルエンザワクチンの予防接種は1回で良いよ

ということです。上記米国US-ACIPの推奨ですが、さらには以下の記載もあり、かなり重要な追加情報です。

This figure is a flow chart describing the influenza vaccine dosing algorithm for children aged 6 months through 8 years for the 2020–21 influenza season in the United States. If the child has received 2 or more doses of trivalent or quadrivalent influenza vaccine before July 1, 2020 (doses need not have been given during same or consecutive seasons), the child should receive 1 dose of 2020–21 influenza vaccine. If the child has not received 2 or more doses of trivalent or quadrivalent influenza vaccine before July 1, 2020, or if it is not known whether the child has received vaccine, the child should receive 2 doses of 2020–21 influenza vaccine (administered 4 or more weeks apart). For children aged 8 years who require 2 doses of vaccine, both doses should be administered even if the child turns age 9 years between receipt of dose 1 and dose 2.
6カ月から8歳までの小児に対するインフルエンザワクチンの接種回数フローチャート

2020年7月以前に、4週間以上の間隔をあけてインフルエンザの不活化ワクチンを通算で2回以上接種したことがあれば、8歳以下であっても今シーズンは1回で良いよ、と言っています。

インフルエンザワクチンに使われる株(A型/B型の推奨株)は、シーズン毎にWHOの専門家会議で選定され、その情報をもとに各国で製造しますので、同じシーズンのワクチン株が国々でマチマチということは想定しにくく、実際、今季のワクチン株は日本と米国とでA型もB型も同じ系統です。これを踏まえると、日本でもこれまでインフルエンザの予防接種を毎年のように受けてきたのであれば、8歳以下でも、今季は1回のみの接種というは十分にありえる選択肢です。

日本のワクチン専門家はどう考える?

2020年10月22日付の朝日新聞デジタルに「子のインフルワクチン、WHOは1回「2回は日本だけ」」という記事があり、そこに興味深い記載がありました。

厚生労働省ワクチン疫学研究班の代表者、広田良夫・相生会臨床疫学研究センター長は「初めて接種を受ける時は2回接種が必要だが、それ以降のシーズンは、通常の1回接種で感染を防げるレベルの抗体ができる。1回でも2回でも効果に大差はない。基礎疾患や供給状況を踏まえて、現場の医師が判断すればよいのではないか」と話す。

インフルエンザに詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「過去の研究では、流行する型によって違いはあるが、1回接種と2回接種の有効性の差はわずかなので、私自身は自分の孫には1回接種としている」という。

朝日新聞デジタル

というわけで、日本のワクチン関連の著名な専門家の方々も、インフルエンザのワクチン接種は1回という選択肢もありと考えているということですね。

因みに、私には7歳と9歳の息子がいますが、今年のインフルエンザワクチンの接種は1回です。理由は2つあり、打つ際に息子たちが逃げ回って面倒くさいのと、これまで述べてきた内容により、個人的には1回の予防接種でインフルエンザの重症化予防効果はあるだろうな、と考えるからです。

まとめ

さて、今年のインフルエンザワクチンは不足傾向で、子供に2回目がなかなか打てないと嘆いている親御さんもいらっしゃると思いますが、以下のようにまとめられるかと思います。インフルエンザワクチンに関して、

  • 日本では、添付文書上は、13歳未満は2回接種となっている(臨床試験のデータに基づくので)
  • 厚労省のQ&Aサイトでも言及されているように(言及であり、推奨ではありませんが)、13歳未満でなくても、9歳以上は1回で良いかもしれません(WHOや米国が推奨しているように)。
  • 更には、例年2回打たれているお子さんなら、13歳未満であっても、今季は1回で良いかもしれません。

■ 了

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