新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーについて

Vaccination

昨日も男性も含め8件報告されたようで、どうも諸外国でのアナフィラキシー発現割合よりはるかに多そうです(ファイザー・ビオンテック社のワクチンは2021年1月18日時点で、100万回あたり5件の発現割合とされています)。全例がアナフィラキシーではないかもしれませんが(アナフィラキシー様反応)、いずれにせよ、想定を超える割合で過敏な副反応が起きているのは間違いなさそうです。

私自身はまだワクチン接種を受けていませんが(早く受けたいと思っています)、当院でも新型コロナのワクチンが打てるように準備は進めています。仮にアナフィラキシーショックが起きても対応できる準備は出来ていますが、この件数の多さはなんでしょうね。日本でだけとなると人種差なども想定されますが、アレルギー反応では、確かに人種差が存在するものもあります。例えば、てんかんや神経痛などに用いるカルバマゼピンという内服薬がありますが、これはHLAという多様な免疫反応をつかさどる遺伝子領域のタイプによっては、重症の薬疹を起こすことが知られています。具体的には、HLA-A*31:01というタイプが薬疹を起こしやすいことが分かっており、日本人では10%前後の方がこのタイプです(カルバマゼピンの添付文書にも記載されていることです)。したがって、もしかしたら日本人特有のあるHLAのタイプが、コロナワクチンに対する重度のアレルギー反応を起こしやすいのかもしれません。これは、今後の症例の蓄積を待つしかありません。

別の理由として、ひょっとしたらと思っているのが、ワクチン接種の手技上の問題です。コロナワクチンは、上腕三角筋に「筋肉内接種」することになっていますが、日本では、ほとんどのワクチンは「皮下接種(皮下注射)」です(筋肉注射もOKというのもあり)。これは、日本だけにみられる慣行で、諸外国では「予防注射は筋肉注射」というのが常識です。なぜこんなことになっているかというと、歴史的な背景のせいです。私が子供の頃、かぜをひくとおしりに筋肉注射を打たれたものですが、これに関連してか、1960~70年代、解熱剤や抗生剤を何度も大量に筋肉注射される事例があり、その不適切な筋肉注射のせいで「大腿四頭筋拘縮症」という副作用が多く起こり社会問題化して、裁判も各地で開かれました(詳しくはこのPDF)。いわば、医療現場において「筋肉注射という行為そのものに対するアレルギー」みたいな風潮が(あった|る)わけです。実際のところは、皮下注射よりも筋肉注射の方が抗体が出来やすく手技上も安全(局所の副反応がより少ない)だとされているので、米国はじめ諸外国では皮下注よりも筋注を推奨しているのですが。

で、コロナワクチンですが、上述の通り、上腕三角筋に筋肉注射です。よくニュースなどで海外のワクチン接種風景として、注射針を腕に垂直にズプッとさすシーンが流れますが、まさにあれです。多くの方があんなに深く刺して骨に当たらないのかな?と思いますよね。でもあれが正しい筋肉注射の手技なのです。仮に骨にあたっても微修正すればよくさほど問題にはなりません。むしろ、遠慮して皮下注射になってしまうことの方が、コロナに対する抗体が出来にくくなるでしょうし、局所の副反応も起きやすくなるかもしれません。一般的に、筋肉組織は血流が豊富で免疫細胞も多く存在します。一方、皮下組織は血流は豊富ではありませんし、免疫細胞も少ないので、mRNAを免疫細胞に取り込ませる必要があるコロナワクチンにはベストではないですね。本来なら筋肉内に注射されたワクチンが速やかに拡散されるべきところ、思わずに皮下注射レベルになってしまうことで、ワクチンがその場にとどまり、アレルギー反応が出やすい局所環境が形成されるのかもしれません(仮に手技上の問題であった場合の単なる推測に過ぎませんが)。

日本において一部の医療機関や地域で先行接種が始まっていますが、きっとワクチン接種を実施する医療従事者(医師や看護師)は、これらのことを十分理解した上で、筋肉注射をしているはずです。なので、このこと(筋肉注射のつもりが躊躇して皮下注射になってしまってる)が原因でアナフィラキシーが日本人で多く見られているわけではないと信じますが、私自身、今後、患者さんに接種していくことになるでしょうから、しっかりと筋肉注射をするということを肝に銘じておきたいと思います。

コロナワクチンでのアナフィラキシーは、同ワクチンに含まれるポリエチレングリコール(PEG)が主因であろうと想定されています。PEG自体は、大腸検査の際に使う下剤や薬剤などを溶かす溶媒として一般的に使用されていますが、ごく稀にこのPEGに対して強いアレルギーを示す方もいます。しかしながら、日本人において、PEGアレルギーが多いという話は聞いたことがないので、もしかしたらPEG以外のワクチン成分が日本人特異的に作用している可能性もありますが、まだ何とも言えないですね。

いずれにせよ、コロナワクチンでアナフィラキシーをおこした方々の多くに、食物や医薬品によるアレルギーの既往歴があり、圧倒的に女性に多いという点は諸外国と同様のようですので、コロナワクチンの予防接種の際には問診で、喘息などを含むアレルギーの既往をしっかりと聞き出すことが大切ですね。

ちなみに、患者さんからもよく訊かれることですが、喘息やじんましんなどのアレルギー(歴)があると、ワクチンが打てないということではありません。ただ、もしかしたら、強いアレルギー反応がコロナワクチンでも出るかもしれないので、接種後しばらく(少なくとも15~30分間)は問題ないか接種した場所で観察しましょう、ということです。

■ 了

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