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COVID-19ワクチン接種後の心筋炎および心膜炎について

当院では、7/20から64歳以下の方々の新型コロナワクチンのWeb予約が始まります。これまでと同様ファイザー/BioNTech社のワクチンですが、12歳以上の方々が接種対象となります(ふじみ野市ではWeb予約が可能な時期は年齢ごとに決まっています)。今後、若年者にも接種枠が広がるわけですが、ワクチン接種後の有害事象に関して留意すべき点があるので整理しておきます。

ワクチン接種が先行する海外では、ファイザー社やモデルナ社のmRNAコロナワクチン接種後に心筋炎・心膜炎が散発的に報告されていましたが、接種者の増加とともに報告例が集積され、米国CDCのACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)やEMA(欧州医薬品庁)のPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)が、確かに心筋炎や心膜炎の報告が若年者を中心にみられるが、リスク・ベネフィットを勘案し、基本的には12歳以上でのワクチン接種を引き続き推奨するとする旨の見解[1, 2]を今年6月に出していました。これを受けて、日本でも添付文書の改訂が比較的速やかに行われ、ファイザー社、モデルナ社ともに同様の文言が、以下のように「重要な基本的注意」の項等に追記されました(7月7日改訂)。

本剤との因果関係は不明であるが、本剤接種後に、心筋炎、心膜炎が報告されている。被接種者又はその保護者に対しては、心筋炎、心膜炎が疑われる症状(胸痛、動悸、むくみ、呼吸困難、頻呼吸等)が認められた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう事前に知らせること。

これに関しては、補足の項があり以下の記載となっています。ここに重要な情報が追記されています。

海外において、因果関係は不明であるが、コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)接種後に心筋炎、心膜炎が報告されている。報告された症例の多くは若年男性であり、特に2回目接種後数日以内に発現している。また、大多数の症例で、入院による安静臥床により症状が改善している(波線は私が追記)。

個人的には「因果関係は不明であるが」の文言は不要に思いますが、これは評価中/引き続き評価していくということなのでしょう。現時点での事実として、mRNAのワクチン接種後のタイミングで心筋炎の報告の集積があるわけですが、どれくらいの頻度で起きているのでしょうか?

ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の発現状況に関しては、7月7日に開催された「第63回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第12回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)」の資料3-1によくまとめられています。これによると、ファイザー社ワクチン接種後における心筋炎関連事象は、日本では100万回接種あたり0.5件、米国では100万回接種あたり4.1件、英国では100万回接種あたり3.6件、欧州では100万回接種あたり1.6件となっており、正直なところ、かなり稀な事象で、ワクチン接種後のアナフィラキシーの頻度より低いです。モデルナ社のワクチンでも同様の発現割合となっています。

当然のことではありますが、非常に稀な事象だからといって別に注意しなくても良いということには決してなりませんし、その事象が「心筋炎・心膜炎」なのでより一層の注意が必要です。というのも、臨床家にとって、心筋炎・心膜炎というのは、普段診断することのない不慣れな疾患だからです。前述の資料の18ページに記載がありますが、令和元年度における心筋炎関連事象の発生頻度は100万人・日当たり1件未満です。私は、これまで心筋炎ですねと診断したことは一度もありません。それぐらい稀な疾患ではあるのですが、稀な理由のひとつとして「診断されずに見逃されている(そして軽症例は時間経過とともに軽快していく)」というのもあると思います。心筋炎に関しては、これも前述の資料29ページにまとめられていますが、以下のような特徴があります。

  • 心筋炎の多くは、細菌やウイルスなどの感染によって発症する.
  • 多くの急性心筋炎患者では、かぜ様症状(悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感)や食思不振、悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状が先行する.
  • その後、数時間から数日の経過で心症状が出現するが、その心症状として以下のようなものが挙げられる.
    • 心不全徴候(約70%)
    • 心膜刺激による胸痛(約44%)
    • 心ブロックや不整脈(約25%)
  • これらの症状発現の有無は病変の部位や炎症の程度や心筋炎の広がりによって決まり、無症候性~軽症も含めると、それなりの頻度で起きていることが想定されるが、非特異的な症状ゆえに、臨床上、明確に心筋炎と診断されることは稀である.
  • 心筋炎は幅広い病像を示すが、一般的な急性心筋炎に限ればその基本的な病状や経過は比較的単一で、炎症期が1 ~ 2週間持続した後に回復期に入る.
  • 急性心筋炎の診断後、心症状が顕著でないのであれば、入院した上での安静臥床と、バイタルサインや心電図・心エコー図・心筋トロポニン値なども含む注意深い経過観察が求められる.

というわけですので、我々臨床家は、コロナワクチン接種後に心筋炎・心膜炎が起こりえるということを認識する必要がありますし、またそれを適切に被接種者に伝えることも大切ですね。では、どういう方々に心筋炎・心膜炎のリスクをどう伝えるべきでしょうか(冒頭で引用したように添付文書に簡潔に記載はありますが)。非常に稀ながらも、世界中でワクチン接種が進んだおかげで、心筋炎・心膜炎が報告されやすい年齢層や発現タイミングに関するデータの蓄積があります。米国CDCの資料によると、発現のタイミングは、下表のようにワクチン初回よりも2回目に多い傾向にあります(これは発熱等の副反応が2回目に起きやすいのと同様です)。

表1.心筋炎・心膜炎はワクチン接種1回目よりも2回目に発現しやすい

また、年齢と性差に関しては、若年男性(中央値は24/30歳)に多く見られる傾向があり、ワクチンを接種してどれくらいの日数で発現するかについては、接種後数日以内(中央値は3/4日)となっています(表2)。特に2回目の接種後に関しては、心筋炎・心膜炎症例の実に8割が男性です。アナフィラキシーが圧倒的に女性に多いのと対象的です。

表2.心筋炎・心膜炎は、若年男性に比較的みられ、ワクチン接種後の数日以内に見られる

上の表では、年齢や発現日の数値が中央値であり、平均値ではないことに留意する必要があります。どの年齢層で見られやすいのかについては、同資料のヒストグラムを見るのが良く、それだと下図のような感じで思春期である16~19歳の未成年に報告件数が多いことが分かります(中央値だと24歳なのでちょっと印象も違いますね)。

報告件数としては、16~19歳に多いことが分かる

同様に、発現のタイミングに関するヒストグラムは下図のようになっており、接種当日から数えて翌1日目~3日目までに多くみられています(要は接種後4日以内)。

発現タイミングとしては接種後翌日から3日目までによくみられる(接種後4日以内)

日本では、これから12歳以上を含む若年者のワクチン接種が始まろうとしているのに、臨床的な診断が難しい心筋炎・心膜炎が10代の未成年に「相対的に」見られやすいとなると、いわゆる「ワクチン接種控え」を検討する方々も増えてきそうですが、それでも米国CDCをはじめ各国当局は、新型コロナのワクチン接種をこれまで通り(つまり12歳以上の対象者に)進めるべきだと言っています。その根拠は何でしょうか。理由はひとつではありませんが、米国CDCにせよ欧州EMAのPRACにせよ、大体以下のようなリスク・ベネフィットに基づいた考察をしています[3, 4, 5, 6]。

  • ワクチン接種後に起こる非常に稀な心筋炎・心膜炎の事象(リスク)と比較して、ワクチン接種をすることで得られるCOVID-19感染症による重篤な合併症や入院・死亡率の低下(ベネフィット)の方がはるかに大きいこと.
  • ワクチン接種後に心筋炎・心膜炎を発症した患者の多くは、治療によく反応し、短期間で軽快していること(ただし心筋炎・心膜炎に罹患したことによる長期的な影響については未だデータがない).
  • (日本でもそうですが)高齢者を中心にワクチン接種が進んだ結果、今やCOVID-19感染者の多くが若年者であり、その内の一定の例数は重症化し、時には死に至っていることを踏まえると、やはり若年者も含めワクチン接種を進めていくのが良い.

上記に関しては、基本的には同意です。ワクチンに限らず、医薬品というものはすべてリスクとベネフィットの天秤にかけて、ベネフィットがリスクを上回ると判断されて初めて投与できます。このリスク・ベネフィットの天秤というものは、個々人レベルでの比較と集団レベルでの比較があり、時には両者を意識して分けて議論する必要があります。CDCの資料は、この辺りをきちんと分けて客観的な指標を可能な限り採り入れて議論してますので説得力はあります。ただし、ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎に関しては、短期的に得られたデータからは、回復も早くこれといった後遺症の報告もないようですが、長期的にどうなるかについては未だデータがありません(資料でも言及されていることです)。もしかしたら、将来的に一般的なウイルス感染による心膜炎を起こしやすくなってるかもしれませんし、加齢に伴う心機能の低下が相対的に早かったりするかもしれませんが、そこは今後明らかになってくる領域です。したがって、当局としては「引き続き情報を収集し、慎重に評価していく」というスタンスを取ることになります。

若年者におけるリスクとベネフィットの天秤(CDCの上記資料より)

さて、以上、mRNAタイプの新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎に関する情報を自分なりにまとめました。当院では、12歳以上の未成年の方々も、保護者同伴のもと接種可能としていますので、希望する方には接種する予定です。その際には、ここで提示した資料をもとに、自分なりにリスクとベネフィットをお伝えした上で接種しようと思います。少なくとも現時点では、アナフィラキシーよりも頻度が低そうなのは安心材料です。添付文書(改訂第7版)では「因果関係は不明であるが」とありますが、この部分は将来的に削除されて、(いわゆるRMPでいうところの)「特定された重要なリスク」になるのではと思っています(つまりアナフィラキシーと同等の扱い)。個人的な心情で言えば、海外当局が因果関係を明らかにしていないからという理由で「因果関係は不明であるが」としたと邪推しますが、提示された諸々のデータを吟味すると、ワクチン接種との因果関係は「あり」だろうなと判断します。ただごく稀というだけで。きちんと副反応のひとつですよと認識した上で、正しく対処するというのが健全に思いますね。

■ 了

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『COVID-19ワクチン接種後の心筋炎および心膜炎について』へのコメント

  1. タナカ ナオミ : 投稿日:2021/07/21 20:37

    とても勉強になりました
    25歳男性の母です
    一回目のコロナワクチン接種の翌日に
    胸に違和感があり、息を吸う時も違和感がえると、痛くて苦しいレベルではありません。熱は36.9度程度 血圧 120/75
    カロナールで様子を見て次の日は 回復しました
    もうすぐ、2回目接種があります
    接種する予定ですが、一回目の様な対応で
    大丈夫でしょうか?
    一回目接種後は、いつも以上に水分は取っていました
    小児喘息、幼児期に川崎病グレーの病歴がありますが、現在喫煙もしてます
    申し訳ないです、質問のサイトではないですよね。

    • Dr. Martin : 投稿日:2021/07/21 21:03

      コメントありがとうございます。なかなか判断が難しいところだとは思います(それこそリスクとベネフィットのバランス次第です)。米国CDCは、アナフィラキシーまで行かなくても(喘息様のゼーゼーする)呼吸苦を呈するようなアレルギーが初回接種後の数時間以内に起きたのであれば、2回目は接種すべきではないと述べています。ご提示のエピソードだけだと、そこまで即時型のアレルギー反応ではない印象で、かつ短期間で回復していることから2回目を積極的に避けるということにはならなそうですが、いずれにせよ、接種担当医と問診時に相談されるのが良いです。もし2回目もとなった際には、胸や呼吸器系の症状が出た際にすぐに相談できるような流れやルートなりを把握しておくのが良いですね。

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