当院でも新型コロナのワクチン接種が始まります

Vaccination

当院でも来週から新型コロナウイルスに対するファイザー/BioNTech社のワクチン個別接種が始まります。まずは75歳以上の高齢者の方々からですが、当院では基本的にかかりつけの患者さんが対象で、多くの方が高血圧やコレステロール又は血糖を下げる内服薬を服用しています。大事なことですが、これらに関連する基礎疾患があるからといって接種できないということにはなりません。また、花粉症などのアレルギー持ちの方でも基本的には接種自体は問題ありません。

では、どういう方が接種すべきではないとなるのでしょうか? 当該ワクチン(コミナティ筋注)では、接種すベきでない対象者を添付文書に明記しています(どの医薬品もそうですが)。それによると、以下に該当する方は接種できません。

接種不適当者
コミナティ筋注の添付文書第3版より

明らかな発熱を呈している者」や「重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者」とは、例えば肺炎を起こして38℃以上の発熱がありますとかだと、当然ながら当日は接種は避けるべきですので、体調を万全にして出直していただくことになります。一般的には、「明らかな発熱」とは、37.5℃以上を指すことが多いですが、平温が35℃台の方もいらしゃるため、あくまで目安です。

3つ目の「本剤の成分に対し重度の過敏症の既往歴のある者」とは、具体的には、当該ワクチンの成分に対してショックやアナフィラキシーなどを起こしたことがある方ですが、成分を見たところで、重度の過敏症を起こすかもしれない方を事前に把握しておくのはなかなか至難の技です。このワクチンは3週間の間をあけて2回接種が必要ですので、初回の接種で重度のアレルギー反応が出れば、2回目の接種は控えることになりますが、初回で事前に把握というのは甚だ困難と言わざるを得ません。とはいえ、アナフィラキシーなどの重度のアレルギーはそうそう起こるものではなく、厚労省の資料(令和3年5月12日付)によると、医療機関からアナフィラキシーとして報告された件数としては、100万回の接種あたり211~311件ですので、0.025%程度ということになります。また、米国CDCなどのアナフィラキシー基準と合わせたブライトン分類に基づき評価された件数だと、100万回あたり37~72件となり、これは米国での100万回あたり10件程度、英国での100万回あたり15件程度と比して、ちょっと多いかなという印象はありますが、アナフィラキシーとして報告された多くの例で軽快したことが判明しているので、決められた手順等に従ってワクチン接種を行い、急変時にも対応できる体制が整っているのであれば、このアナフィラキシーの頻度情報だけを理由に接種を避けるべきということにはならないかなと思います。

で、当該ワクチンの何らかの成分がこの稀なアナフィラキシーを起こすわけですが、今のところポリエチレングリコール(PEG~ペグ)が怪しいのではないかと言われています。PEGは大腸内視鏡の検査時に使用される下剤の主成分ですし、様々な医薬品に添加剤として含まれており、PEGとの交差反応性が懸念されているポリソルベートも同様に複数の医薬品に含まれています。また、PEGは、医薬品のみならず化粧品にも多く使われており、これが当該ワクチンのアナフィラキシーが圧倒的に女性に多い理由のひとつかもしれないとされます(化粧品に含まれるPEGに対する経皮的感作の成立が一因の可能性)。

どういう医薬品にPEGが含まれているのかは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページから調べることが出来ますが、そこで検索したところ、98件の医薬品がヒットしました。中には、当院でも処方しているような降圧剤やコレステロールのお薬と同系列のも含まれていて、それだけよく使用されている添加剤ということです(ちなみに、ポリソルベートで検索すると、実に878件がヒットしました)。

当該コロナワクチンによるアナフィラキシーは、まだ機序も含めて十分には解明されておらず、情報収集の段階です。アナフィラキシー自体は、海外での報告に比して日本で多く見られる印象もあります。この理由のひとつとして、以前、人種差もあるかもしれないと言及しました。これは今後解明されていくでしょう。その他の理由としては、医療従事者に先行して始まりましたが、はじめは病院内の接種であり、接種後の慎重な観察により報告しやすい環境であったことやワクチン接種そのものに対する日本社会の風潮などに起因する心理的な影響もあったかもしれません。今後、当院のような小さなクリニックレベルでの接種が全国的に進んでいくと、100万件あたりのアナフィラキシーの頻度も下がっていくのではないかと期待します。

参考リンク

■ 了

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