痛くないインフルエンザワクチン「フルミスト」のススメ
今年もインフルエンザワクチンの季節がやってきました。当院では3年前から、鼻に噴霧するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」を採用しています。注射のような痛みがなく、小さなお子さんには基本的にオススメというのが当院のスタンスです。
海外では長らく使われてきたワクチンで、米国では2003年から、英国では2013/2014シーズンから、 フィンランドでは2015/2016シーズンから使用されている実績のあるワクチンです。日本では2024/25シーズンの接種からようやく使用が開始されました。
フルミストは季節性インフルエンザ予防の主要な選択肢の一つですが、「生ワクチン」ならではの注意点もあります。この記事では、一般の方にも分かるように、フルミストの仕組み、注射との違い、メリット・デメリット、そして接種後に起こりうる「検査で陽性になる」「熱が出る」といった場面での考え方をまとめました。医療従事者の方々向けに、根拠となる文献は末尾に参考文献としてまとめてあります。本文中の [1] のような番号をクリックすると該当の文献に飛びます。
フルミストとは?
フルミストは、2歳以上19歳未満を対象とした、鼻の中に噴霧するタイプのインフルエンザワクチンです[1]。左右の鼻に少量ずつ噴霧するだけで、注射針は使いません。
従来の注射のワクチン(不活化ワクチン)が「ウイルスの部品」を体に入れて免疫をつけるのに対し、フルミストは弱毒化した(病気を起こさないように弱らせた)生きたウイルスを鼻の粘膜で少しだけ増やし、それによって免疫をつける「生ワクチン」です。この違いが、後で述べるメリットとデメリットの両方につながっています。
| 比較する項目 | フルミスト(経鼻・生ワクチン) | 注射のワクチン(不活化ワクチン) |
|---|---|---|
| 接種方法 | 両方の鼻に噴霧 | 皮下注射 |
| 対象年齢 | 2歳以上19歳未満 | 生後6か月以上 |
| 回数 | 原則1回 | 13歳未満は2回、13歳以上は1回 |
| 免疫のつき方 | 鼻の粘膜の免疫(IgA)+全身の免疫 | 主に血液中の抗体 |
| 主な副反応 | 鼻づまり・鼻水 | 注射部位の痛み・腫れ |
| 効果の持続 | 1シーズン(6〜8か月程度、最長12か月の報告) | 5か月ほど |
フルミストのメリット
- 痛くない
いちばん分かりやすい利点です。注射が怖くて泣いてしまうお子さんでも(実際に注射は痛いですよね)、鼻にシュッとするだけなので負担がずっと少なくて済みます。
- 効果がしっかりしている
鼻の粘膜は、インフルエンザウイルスが最初に入ってくる場所です。フルミストはその「入り口」で待ち構える免疫(粘膜免疫)をつくるのが特徴で、小児では注射のワクチンと同等か、それ以上の発症予防効果が報告されています[2][3][4]。乳幼児を対象に注射ワクチンと直接比較した有名な研究では、フルミスト群のほうがインフルエンザの発症が約55%少なかったという結果でした[3]。
- 1回の接種で済む
注射の不活化ワクチンは13歳未満だと2〜4週間あけて2回接種が必要ですが、フルミストは原則として1回の接種で完了します[1]。通院回数が減るのは、お子さんにも保護者の方にも助かる点です。当院だと、注射の不活化ワクチンは2回接種で6,500円かかります(3,500円+3,000円)。一方、フルミストは1回で7,000円です(あくまで当院での場合)。個人的には500円の差を上回るメリットがあるように思います。
- 効果が長持ちする
注射の不活化ワクチンの効果は大体5か月ほどといわれ、特に小児では接種後4か月を過ぎると弱まりやすいことが知られています。フルミストは1シーズン(6〜8か月程度)、研究によっては12か月にわたって効果が続くことが示されています[14]。小児の大規模試験をまとめた解析では、流行株とワクチンの型が合っていた場合、注射ワクチンと比べた相対的な有効性は接種後0〜4か月で25〜60%、4〜8か月以降では49〜89%と、時間がたつほど差が広がりました[14]。イギリスの最近2シーズンの調査でも、大人では時間とともに効果が落ちたのに対し、小児(主にフルミスト)では明らかな低下がみられませんでした[15]。
長持ちする理由は、自然の感染に近い形で免疫がつくことにあります。鼻の粘膜で働く分泌型IgA抗体や細胞性免疫が誘導され[17][18]、鼻やのどの粘膜に「記憶」を持つ免疫細胞(メモリーB細胞)が接種6か月後も保たれていることも報告されています[16]。日本の流行期(おおむね11月〜翌4月)は十分にカバーできる計算です。ただし、インフルエンザウイルスは毎年少しずつ姿を変えるため、注射のワクチンと同じく毎シーズンの接種が必要です。
コロナ禍以降、冬だけの流行だった季節性インフルエンザが、ここ数年は季節外れの夏~秋にも見られるケースがあり、そういう観点からも効果が持続するというのは魅力的なポイントかなと思います。
フルミストのデメリットと注意点
- 鼻づまり・鼻水が出やすい
鼻の粘膜でウイルスが少し増えるため、鼻づまりや鼻水が約6割(59.2%)と高い頻度で出ます[1]。咳、のどの痛み、頭痛なども1割以上にみられます。多くは軽く、数日でおさまる「風邪のひきはじめ」のような症状です。
- 熱が出ることがある(でも注射と同じくらい)
「生ワクチンだから熱が出やすいのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、データを見るとそうでもありません。
- 添付文書では、発熱は「1〜10%未満」の副反応に分類されています[1]。国内の資料では、38℃以上の発熱は約7.6%とされています[12]。
- 2〜4歳の小児で、フルミストと注射ワクチンの発熱頻度を直接比べた米国の研究では、接種後0〜2日目の38℃以上の発熱はフルミスト3.8%、注射ワクチン7.1%で、統計的な有意差はありませんでした[8]。
- 注射の不活化ワクチンでも、小児の発熱は「5%以上」と添付文書に記載されています[13]。
報告 発熱の定義 頻度 フルミスト 国内添付文書[1] 発熱全般 1〜10%未満 フルミスト 国内資料[12] 38℃以上 約7.6% 米国 前向き研究(2〜4歳)[8] 38℃以上(0〜2日目) フルミスト 3.8% / 注射 7.1% 4価製剤の国際試験(2〜8歳)[9] 発熱全般 5.1% 各文書における副反応としての発熱割合 つまり、38℃以上の熱が出る割合は、注射のワクチンとほぼ同じ水準です。「フルミストだから高熱が出やすい」ということはありません。
- 接種できない方・慎重に判断する方
生ワクチンなので、次のような方は接種できない、または慎重な判断が必要です[1]。
- 明らかな免疫不全のある方(免疫を抑える治療を受けている方を含む)
- 妊娠中の方
- 重い喘息のある方、最近ゼーゼーするような喘鳴があった方
- 2歳未満、または19歳以上の方(対象外)
上記に該当する方は、これまでどおり注射のワクチンをおすすめします。
- 周りの人への配慮
接種後1〜2週間は、鼻から弱毒化したワクチンウイルスが出ることがあります[1]。健康な人にうつっても問題になることはまずありませんが、重い免疫不全のある方(抗がん剤治療中、骨髄移植後など)と同居している場合は、その期間は密接な接触を避ける配慮が必要です。ご家族にそういった方がいる場合は、接種前にご相談ください。
- 抗インフルエンザ薬(タミフル、ゾフルーザなど)
抗ウイルス薬はワクチンウイルスの増殖を止めてしまうため、接種前後に使うとワクチンの効果が弱まる可能性があります(こちらについては後述)[1]。
知っておくべき注意事項
接種後にインフルエンザの検査で「陽性」になることがあります
フルミストは鼻の粘膜でワクチンウイルスが増えるため、接種後しばらくは、鼻の検査(迅速抗原検査やPCR検査)でインフルエンザ「陽性」と出ることがあります[1][7]。ただ、本当に感染したわけではなく、ワクチンのウイルスを検出しているのです。
どのくらいの期間、どのくらいの割合で?
ウイルスの排出を培養で調べた研究では、排出は主に接種後1〜11日にみられ、ピークは接種後2日目でした[5]。年齢が低いほど排出される割合が高くなります。
| 年齢 | ワクチンウイルスが検出された割合 | 主な検出期間 |
|---|---|---|
| 5〜8歳 | 44% | 接種後1〜11日 |
| 9〜17歳 | 27% | 接種後1〜11日 |
| 18〜49歳 | 17% | 接種後1〜11日 |
より感度の高いPCR検査で成人を調べた研究では、接種翌日には約9割で検出されましたが、7日目には9%まで下がっています[6]。添付文書には、臨床試験で接種25日後にも検出された例があることから、「接種後4週間以内は迅速検査で陽性になる可能性がある」と記載されています[1]。目安として、接種後1〜2週間は陽性になりうる、4週間以内なら可能性はゼロではない、と考えておくのが無難かなと思います。
A型とB型の両方が陽性になることも
フルミストにはA型(H1N1とH3N2)とB型のワクチンウイルスが含まれています。そのため、検査でA型とB型の両方が陽性になることもありますし、片方だけのこともあります。自然にかかった場合にA型とB型に同時に感染することは非常にまれなので、接種直後に両方陽性なら、ワクチン由来を疑う手がかりになります。
ワクチンのウイルスと本物の感染は区別できる?
残念ながら、クリニックで行う迅速検査や一般的なPCR検査では区別できません[1][7]。ワクチン株に特有の遺伝子配列を調べる特殊な検査は研究機関でしか行えないため、実際の診療では、症状の経過(接種後何日目か、発熱の程度、周りの流行状況)を総合して判断することになります。
接種後に熱が出て、検査が陽性だったら?
たとえば接種後1週間で発熱と咳が出て、検査が陽性になったとします。可能性は2つあります。
- ワクチンに含まれるウイルスが検出されただけで、熱は別の原因(他の風邪ウイルスなど)
- 本物のインフルエンザに感染した(接種から1週間ではまだ十分な免疫ができていません。予防効果が出るのは接種後およそ2週間後)
先ほど述べたとおり、検査でこの2つは区別できません。当院では次のように考えています。
- 症状が強いときは、治療をためらわない。周りでインフルエンザが流行していて、高熱や強い症状があれば、本物の感染として抗インフルエンザ薬で治療します。
- ただし、抗インフルエンザ薬はワクチンウイルスの増殖も止めてしまうため、フルミストの効果は弱まる(または失われる)可能性があります[1]。その場合、そのシーズンの予防をしっかりしたいなら、あらためて注射のワクチンを接種することも選択肢のひとつです(当院ではそういうケースは一度もありませんが)。
- 症状が軽く、接種後数日以内の一過性の熱であれば、ワクチンの副反応として様子をみることもあります。
「接種後に検査が陽性になりうる」ということを、保護者の方が事前に知っておくことが大事です。園や学校から検査を求められた場合も、接種日を伝えていただければ対応をご相談できます。
まとめ:こんなお子さんにオススメです
- 注射が苦手、痛いのを避けたいお子さん
- 2回接種のために通院するのが大変なご家庭
- 2歳以上19歳未満で、免疫の病気やコントロールが難しい喘息持ちではない方
鼻づまりなどの軽い副反応はありますが、熱の出やすさは注射と変わらず、効果はしっかりとあり、むしろ良いぐらいです。小さなお子さんには、当院では基本的にフルミストをオススメしています。接種後の「検査で陽性」の件だけ、頭の片隅に置いておくと良いです。
ご希望の方、接種できるかどうか迷う方は、診察時または受付でお気軽にお尋ねください。今シーズンの接種時期や予約については、当院の公式サイトのお知らせをご覧ください。
■ 了
参考文献
- フルミスト点鼻液 添付文書(第一三共). PMDA医薬品医療機器情報. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/631370AR1026 ↩
- Minozzi S, et al. Comparative efficacy and safety of vaccines to prevent seasonal influenza: A systematic review and network meta-analysis. EClinicalMedicine. 2022;46:101331. PubMed ↩
- Belshe RB, et al. Live attenuated versus inactivated influenza vaccine in infants and young children. N Engl J Med. 2007;356(7):685-696. PubMed ↩
- Carter NJ, Curran MP. Live attenuated influenza vaccine (FluMist®; Fluenz™): a review of its use in the prevention of seasonal influenza in children and adults. Drugs. 2011;71(12):1591-1622. PubMed ↩
- Block SL, et al. Shedding and immunogenicity of live attenuated influenza vaccine virus in subjects 5-49 years of age. Vaccine. 2008;26(38):4940-4946. PubMed ↩
- Influenza A and B viral shedding in adults immunized with live attenuated influenza vaccine. Clin Infect Dis. 2026. PubMed ↩
- Diagnostic discrimination of live attenuated influenza vaccine strains and community-acquired pathogenic strains in clinical samples. Mol Cell Probes. 2007;21(2):103-110. PubMed ↩
- Assessing fever frequency after pediatric live attenuated versus inactivated influenza vaccination. J Pediatric Infect Dis Soc. 2017;6(3):e15-e20. PubMed ↩
- Immunogenicity and safety of a quadrivalent live attenuated influenza vaccine in children. Pediatr Infect Dis J. 2012;31(7):745-751. PubMed ↩
- Safety and viral shedding of live attenuated influenza vaccine (LAIV) in Chinese healthy juveniles and adults: a phase I randomized, double-blind, placebo-controlled study. Vaccines (Basel). 2022;10(11):1796. PMC
- An integrated, multistudy analysis of the safety of Ann Arbor strain live attenuated influenza vaccine in children aged 2-17 years. Influenza Other Respir Viruses. 2011;5(6):389-397. PubMed
- 第一三共. フルミスト点鼻液 製品情報(2026年8月). medicalcommunity.jp ↩
- インフルエンザHAワクチン「生研」添付文書. PMDA医薬品医療機器情報. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/631340FA1055 ↩
- Ambrose CS, et al. The efficacy of live attenuated and inactivated influenza vaccines in children as a function of time postvaccination. Pediatr Infect Dis J. 2010;29(9):806-811. PubMed ↩
- Effectiveness of influenza vaccines and duration of protection against hospitalisation in England: 2022/2023 and 2023/2024 seasons. Influenza Other Respir Viruses. 2025. PMC ↩
- Local B cell immunity and durable memory after live-attenuated influenza intranasal vaccination of humans. Sci Transl Med. 2026. PubMed ↩
- Comparative immunogenicity of the 2014-2015 Northern Hemisphere trivalent IIV and LAIV against influenza A viruses in children. Vaccines (Basel). 2019;7(3):87. PubMed ↩
- Comparisons of the humoral and cellular immune responses induced by live attenuated influenza vaccine and inactivated influenza vaccine in adults. Clin Vaccine Immunol. 2017;24(1):e00414-16. PubMed ↩